※このページは外見についての描写がありますが、作者自身、外見至上主義という考えは持っておりません。



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「…フェチ?」

夜が更けた飛行船の中。たまたま居合わせたバッツとジタンが軽く談笑しており、途中でジャックが混ざり他愛もない会話を繰り広げていた。そして最後に通り掛かったリュドにジタンが声をかけたのが始まりだった。最初は変わった組み合わせと思って見ていたが最後、あれよあれよと話の輪の中に入る形になった。

このメンバーは賑やかな部類であり、リュドもそれに惹かれて話し込んではいたが、内容の移り変わりは絶えないと関心していた。しかし、その話題の中心がこれまたどちらかというと静かである自分に向くとは思わず、しかも内容が内容であるためにすぐに理解できなかった。

リュド自身フェチという言葉は聞いたことがなく、詳しく尋ねたところ物珍しそうな顔をされる。代表してジタンがリュドに説明した。

「好きなやつの自然と目が行く部分だな。ナマエの外見でどこ見る?」

「…私はどちらかというとナマエの内面に惹かれているのだが」

「もちろんわかってるけどさー!ほら、見た目でも見ちゃうところってあるだろ?」

「なにを?」

突如このメンバーからは考えられないような声が背後から聞こえる。それが女性の声だと認識した瞬間、ジタンは尻尾がビクリと跳ね上がる。「ナマエだ」とバッツがにこやかに手を振りナマエに挨拶し、ナマエも少し笑って頷く。そして、再度ジタンに尋ねた。

「で、何見ちゃうの?」

「え〜〜〜っとだなぁ…」

ジタンがバッツやジャックに助けを求めるも、バッツは無言のまま見つめ返し、ジャックに至っては十字を切っている。つまり見放されているのだ。フェチというものはデリケートな内容である。答えの例として胸や尻などが挙げられることも多々あり、それらを口にした瞬間ナマエに締め上げられることは目に見えている。ジタンがダラダラと冷や汗を流し、ナマエが不審そうにそれを眺めたとき、事態が変わった。

「…」

「……え?」

ナマエの後ろからそれまで傍観していたように思われたリュドが手を伸ばし、ナマエの肩をクッと掴む。そしてそのまま手の形を変えず、幅を確認するかのように自分の手を見つめた。

「リュド?」

「やはり肩だな」

「肩?随分珍しいところに目をつけたね〜」

ジャックが目を丸くしてリュドを見ると、リュドはその手を自分の肩と重ねていた。

「私の肩と比べるとこんなにも薄い。ナマエの肩を見るたびにもう少し食べたほうが良いのではと不安に思うところはある」

それはフェチの話ではないのでは…?と男三人は揃ってモヤっとした気持ちになったが、次の言動で衝撃を受けることとなる。スッともう一度手を伸ばしたと思うと、軽くナマエの耳に触れる。それにびっくりしてナマエが肩を震わせると、僅かにリュドの目元が柔らかくなった。

「あとはこうして跳ね上がる肩を見るのも好きかもしれない。照れているのだなとすぐに分かるから」

「……」

ナマエは突然であったために言われた内容に何も返すことができなかった。残りの三人もリュドがこのような行動に出ると思わずに身体の機能が停止したかのように動きが止まる。その時ちょうど、遠くの方でリュドを呼ぶ声がした。

「話に混ぜてくれてありがとう。私は向こうに行くよ」

じゃあ、と1度手を降ったリュドにジタンたちは未だ呆然としながら、何とか手だけは振りかえす。完全に姿が遠くなったリュドから横に視線を逸らすと、ナマエは耳まで赤くして顔を覆っていた。

「通りすがっただけなのに爆弾を落とされたんだが……??」

「なんか…ごめんな」

バッツとジタンはあまりにもいたたまれず、ポンとナマエの背に手を当てた。ジャックだけは今度はナマエに十字を切っていた。


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